【親の心の準備10】2020年新入学一年生に今年しかできない贈り物を
特別な年に入学を迎える子どもたち
2020年春、小学校入学を迎える子どもたちは、とてもスペシャルな経験をしています。世界中を席巻する新型コロナウィルスの影響を受けて、他の年令の子が体験しなかった厳しい社会状況の中で新入学を迎えます。
入学式への対応は、日時、式の内容など、自治体・学校によって異なると思いますが、いずれにせよ、多くの人が密集しない対策を施したものになるでしょう。新入学というお祝いの式なのに、どうしても地味なものになってしまいます。
運が悪いわね、かわいそうね、という声が聞こえてきそうです。そう思ってしまうのは当然のことでしょう。
でも、かわいそうなだけでしょうか? 「災い転じて福となす」「禍福はあざなえる縄のごとし」ということわざがあります。しばし思いを巡らせていくと、これは逆に、得がたい「試練」なのかもしれないと思うようになりました。
今年だからこそ、伝えられることがある
親として、大人として、今年の新一年生をかわいそうと思ってしまうと、かわいそうなんだから、その分何かしてあげなくちゃというふうになっていきます。欲しいものを買ってあげようとか、いつもはダメといっていることを許してあげようとか、そんなふうに気持ちが流れていきます。
でも、この危機的な状況を「試練」だと考えてみると、今だからこそできる、平穏無事なときにはできないだろう、いろいろなことを思いつくのです。将来のある子どもたちだからこそ、大人としてこんなことをしてあげるべきと思うことが、いっぱい出てきました。
たとえば、こんなふうにです。
・世の中には、誰にも予想がつかない、本当に思いがけないことが起きることがあるんだよ。
・世界にはたくさん偉い人がいるけど、そんな人たちでも、こうなることを防ぐことはできなかったんだ。
・こんなふうに、自分たちひとりひとりの行動が、社会全体に影響してしまうことがあるんだよ。
・新型コロナウィルスは、地球上に初めて登場してきたウィルスだから、ふつうの大人はもちろん、病気の専門家でも、こうすれば絶対大丈夫という正解はわからないんだ。
・本当の正解はわからなくても、少しでも感染する人を減らしたいし、死んでしまう人を少なくしたい。だから世界中の研究者が、今一生懸命調べているんだよ。
・私たちふつうの人も、自分や家族が感染するのはいやだし、知らない人でも感染する人を減らしたいし、死んでしまう人を減らしたいよね。だから、どう行動するのがいいか、きちんと考えないといけないんだ。
新型コロナウィルス感染で、今、自分たちの住んでいる地域がどうなっているか、日本全体がどうなっているか、世界がどうなっているかを、ていねいに教えてあげれば、それは、子どもたちの柔軟な脳の中に、しっかり刻み込まれて、これからの人生に役に立つと思います。
あるいはこの機会に、手洗い、うがいなどの習慣をしっかりつけておけば、その子の健康に大いに役立ちます。
あるいは、病気の中に感染症というものがあること、どんな感染症があるのかなどを教えてあげれば、こんな事態だからこそ、子どもたちの脳裏にしっかりと残るでしょう。“大人になったら、こんな病気を撃退するえらいお医者さんになる!”と思う子もいるかもしれません。そうなれば、親が医者になってと望むより、ずっとずっと強い動機づけにもなるでしょう。
ママ・パパが考え、議論している姿を見せてあげて
新型コロナウィルス対策では、今のところ、これが正しいという答えが見つかっていません。世界中の専門家が調査・研究をしていますが、まだ道半ば。このように正解がわからない問題に出会ったとき、人はどうすればいいのでしょうか?
誰もが答えがわからない問題を前にして頼りになるのは、「考える力」だけです。事実を正しく把握し、自分のできることできないことをきちんと判断して、自分なりの答えを見つけていくこと。答えを教えてくれる人がいないときには、こうするしかありません。誰かのせいにしても、少しも問題は解決しません。
数年前に話題になった予言「今ある職業の7.8割は、テクノロジーの発展で将来なくなっているだろう」を思い出しました。これもまた答えがわからない難問で、子どもたちが将来どんな職業につけば幸せになれるか、親として判断するのが難しい時代です。子ども自身に、答えを見つける能力をつけておいてあげることが、何より大事です。
そういう意味では、新型コロナウィルスの流行に対してわが家はどうすべきなのか、ママ・パパが真剣に考え議論している姿をお子さまに見せてあげることも、とてもいい家庭教育になるような気がします。
わが子が思い出したときに恥ずかしくない行動を
私たち大人にとっては、自らの責任で実際に対応しなければならない事態ですが、この年代の子どもたちは、そうではありません。身近な大人たちに頼るしかありません。だからこそ、子どもたちの身近にいる親はもちろん、そうでない大人たちも、今の子どもたちが成長してから思い出しても恥ずかしくない行動をとる必要があります。
“新型コロナのとき、うちのママは怖い怖いって、ヒステリーになっていたよ”なんて思い出を作ってもらいたくはないですよね。
しみじみ思うのですが、感染症の流行は、私たち人間が、ひとりひとり個別に生きている動物ではなく、人々の中で、社会の中で生きているということを、厳しく突きつけてきます。
そして、もうひとつ、入学式がどうなるかより、人生にはもっともっと大事なことがあることを教えてくれます。平穏無事なときには気づきにくいこれらのことを、まずは大人がしっかり自覚し、それを真摯な気持ちでわが子に伝える。小学校の入学時にこれができたら、それは、大人ができる最高の贈り物になるのではないでしょうか?
2020/04/01